
病院への入院、福祉施設への入所の際には、「身元保証人」と呼ばれる方を求められることが一般的です。
身元保証人には、入院・入所時の手続き、入院中の様々な相談や報告先、緊急時の連絡だけではなく、ご本人に万一があった場合のご遺体等の引き取り等、様々な場面ごとの対応が求められます。
ですが、一人暮らしの方が増加している現代では、子供がおられない方や、ご事情があって親族と疎遠になっておられる方の場合、“身元保証人を頼める人がいない”という悩みを持たれる方も多くおられます。
また、親族が同年代の高齢の方しかおられず、身元保証人等として病院や施設へ対応することは難しいと言われた、という方、配偶者しか身元保証人がいないという場合でも、先方に二名の身元保証人を求められた、という方もおられます。
「身元保証人がいないので、入院を断られた」というお話を聞くことがあります。
この問題につきまして、厚生労働省は各都道府県に対して、「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」という通知(平成30年)を出しておりまして、その中で「身元保証人がいないことのみを理由とした入院拒否は、医師法第19条第1項に抵触する」という見解を述べております。
ただ、この問題はご本人だけではなく、病院や施設なども対応に苦慮する問題となっておりまして、総務省関東管区行政評価局による「高齢者の身元保証人に関する調査」の調査結果(令和4年)では、9割以上の病院・施設が「入院・入所希望者に身元保証人等を求めている」という回答があり、いない場合の対応は、次の様な回答となっておりました。
(保証金などの条件付きを含む)
「成年後見人等の利用を求める」ということは、親族等で引き受け手がおられない方に、第三者に“後見人”になってもらい、その後見人に身元保証人等の役割を担ってもらう、ということになります
最も多かった「個別の対応をする」という回答には、ご本人のご家族との関係や判断能力の程度、金銭的な問題など、人によって様々な状況が異なる中、病院や施設等も難しい対応を迫られていることが伺えます。
成年後見制度の利用にあたりましては、ご本人の現在の判断能力によって、次の二つがあります。
→任意後見制度
→法定後見制度
(後見・保佐・補助)
認知症や障がいなどの理由で判断能力が不十分な方で、在宅での生活が難しい方の場合、“後見人がいなければ、施設等への入所が難しい”という現実的な問題もありますので、本人や親族だけではなく、病院関係者や担当のケアマネージャー、市町村の地域包括支援センター等が、ご本人と相談の上で後見人の申立を検討することもあります。
また、後見制度を利用する場合、家庭裁判所への申立を経る必要がありますので、最低でも1か月以上は日数を要することになります。
入院などが決まってからの申立では間に合わないことも考えられますので、注意が必要です。
なお、費用支払いの保証として「連帯保証人」を求められることがありますが、成年後見人等(法定後見、任意後見)は、連帯保証人になることが出来ません。
これは、本人に代わって支払いを行った場合,本人に対し求償(お金の請求)権を取得することとなりますが、成年後見人等は本人の財産管理を担う役割がある為、求償権を行使しようすると成年後見人等自身に求償することになり、「利益相反」(一方の立場では利益となるが、別の立場では不利益になる行為)となる為です。
入院時等の身元保証人の問題に関しまして、身元保証会社・団体等を利用するという選択肢もあります。
ホームページ等では、多くの企業や団体が身元保証のお引き受けをする案内があり、その多くは依頼者の方と引き受け手との間で「身元保証契約」を締結し、以後の身元保証人になって頂くというものです。
身元保証の引き受け手となる会社や団体につき、「何をしてくれるのか」、「費用はいくらなのか」、「どういう方法なのか」、「担当してくれる方はどんな方か」などは千差万別ですが、身元保証契約は委任契約の一種ですので、成年後見制度の様に、委任された事務の家庭裁判所等への法的な報告義務はありません。
この為、事務をどの様に履行したかをチェックする機関等が定められていないことも多く、「預けたお金がどの様に使われたのか、判らない」という様に、管理が杜撰なケースも現実に存在します。
もちろん、身元保証会社や団体も誠実に職務をしておられるところはありますし、公的な制度である成年後見制度が決して万全とは思いませんが、報告等の法的義務の有無は大きな違いであると思っておりますので、少なくとも私は、後見人という立場で身元保証について考え、活動しております。
後見人は、日常生活のサポートに加え、ヘルパーやケアマネージャー等の福祉関係者の方々と協力し、費用の支出等の金銭管理、医療・介護・福祉サービス等の契約をご本人に代わって行うことが役割となりますが、一方で、手術等の「医療行為」に対する意思決定・同意等に関しては、本人の一心専属性が極めて強いものとして、第三者後見人にその権限はありません。
また、後見人だけではなく福祉関係者には、ご本人の「意思を尊重すること」、「意思決定の手助けをすること」、「意思推定をする為の情報提供」などが求められますが、入院や入所等をきっかけとして後見人になった場合、ご本人とコミュニケーションを図る時間的な余裕が無く、意思疎通が上手く図れていないこともありますので、その意思を尊重したり、推定したりすることが困難な場合もあります。
後見人とご本人のお付き合いは、入院時等の一時的なものではなく、その後の人生をご一緒するところにもなりますので、お互いの信頼関係が無ければ成り立ちません。
ご本人が何を求めていて、何をして欲しくないのかという様な事柄は、質問による受け答えだけではなく、日常会話や普段のコミュニケーションの中で、お互いの性格や考え方等を知り、その想いを理解しようとすることにより、少しずつ教えて頂ける様なものではないかと考えます。
身元保証人等に関するご相談をお伺いしておりますと、「誰(何処)に頼めばよいのですか?」という質問を頂くこともありますが、残念ながらそれには正解が無いものと考えます。
依頼者のお考えやお気持ち、求めておられる内容、ご家族や金銭の状況など、様々なものが人によって異なりますので、それらも違って当然だと考えるからです。
弊所では、身元保証人のことで困られている方との間で、後見人としてのご契約頂いた後、病院や福祉施設等にご一緒して、「身元引受人」「身元保証人」等の欄に後見人(法定後見、任意後見人又は任意後見受任者)として記入の上で「緊急連絡先」にご登録頂き、万一の場合のご対応を行う旨をご説明するという方法を行っております。
もし、「連帯保証人」欄しかない場合でも後見人は連帯保証人になれないものの、緊急時のご対応をさせて頂く旨をご説明し、“連帯保証人後見人”などとして手続きを進めて頂いております。(こちらにつき、病院や福祉施設側から新たな保証人等を求められたことはありません。)
なお、任意後見につきましては、ご本人の判断能力に問題が無い状態は「任意後見受任者」となりますが、その旨が登記されますので、正式な任意後見人となる前でも支障はありません。
最後に、弊所ではお互いの信頼関係を基にして周りの方々と一緒になって、ご本人のお手伝いが出来る関係が大切であると考えておりますので、成年後見制度の利用(終活では任意後見となります)や死後事務委任契約などのサポートを踏まえながら、身元保証人等へのご対応をさせて頂いております。
“名前を書くだけ“という様な一時的なお付き合いは行っておりませんので、ご承知おき下さい。