人が亡くなった時には、様々な手続きが必要となります。
葬儀や火葬、お墓の準備や納骨だけではなく、死亡届・国民保険・介護保険・年金等、官公署への色々な手続き、電気・ガス・上下水道といった公共料金、その他個別の契約の停止や変更手続きもあります。
当然のことながら、これらをご自身で行うことは出来ませんので、通常は遺された親族が行うことになりますが、身近に頼れる親族がおられない方、または理由があって親族のお世話になりたくない方の場合、それを事前に誰かに依頼しておく必要があります。
これらの様々な手続きなどを「死後事務」といい、それを事前に依頼する契約を「死後事務委任契約」と呼んでおります。
死後事務委任契約で依頼されている主な内容は、下記の通りとなります。
その他、残されたペットのその後お世話、スマートフォンやタブレット内のデジタルデータの取り扱い、SNS等のアカウントの削除や停止などについても、考えられることが増えてきております。
死後事務に関するご相談をお伺いしておりますと、「遺言に書いておけばよいのですか?」というお問い合わせを受けることがあります。
亡くなった後のことを託すのが遺言ですので、死後事務と言われる部分も託すことは出来ないのか、というお気持ちからのご質問ですが、残念ながら遺言で死後事務に関することを託すことは出来ません。
遺言は、民法で規定された事項しか法的な効力が生じませんが、民法には死後事務に関する規定がありませんので、死後事務に関することが遺言に記載してあったとしも、それは法的な拘束力がないものとなります。
成年後見制度における、法定後見との関係で、「後見人が死後事務を行えるか」という問題があります。
平成28年の民法改正では、相続人が相続財産を管理できる状態となるまでの期間に限り、家庭裁判所の許可があれば、後見人が財産の保存や火葬・埋葬の契約の締結などを行うことが可能となりました。
ただ、これらはあくまで例外的なものと考えられておりますし、家財道具の処分や葬儀に関することは行うことまでは出来ませんので、遺言や後見人には託せない範囲のことを依頼するというのが、「死後事務委任契約」ということになるかと思われます。
死後事務で必要となるお金は、大部分が葬儀や納骨、家財道具等の処分などに係る実費となりますが、“何を任せたいのか”、“どの程度の規模が必要か”ということは、依頼される方によって異なります。
その金額は、数十万円〜百万円以上となることも珍しくありませんが、お亡くなりになった後にご本人からいただくことは出来ませんので、「預託金」という形で事前にお預かりすることが一般的です。
“人の死”がいつ到来するかは誰にも分かりませんので、ご依頼いただいてからその時が来るまで、年単位の時間となることも少なくなくありません。
ですが、いざという時にはすぐに対応することが必要となり、お預かりした金銭を適切に管理することも求められますので、死後事務に関する部分までお引き受けしている専門家は、まだ限られているのが現状です。
弊所でお引受けする際も、所属するNPO法人京都府成年後見支援センターを通じて、契約、預託金を管理する、という体制をとっております。
また、預託金は依頼された事務の為だけに使うものですが、将来の病院や施設などへの支払い、物価の上昇や費用の改定など、契約の段階では金額が確定しない様な事柄もありますので、予備費となるものをお預かりすることになります。
将来、お任せいただいた全ての事務が完了し、預託金に余剰が生じた場合は、依頼者の相続人や遺言で指定された方へお渡しすることになります。
死後事務委任契約は、ご自身が亡くなった後のことを託すものですので、それまでの間のことについては、何かをお任せいただいているという訳ではありません。
ですが、死後事務委任契約をされた方に、身近に頼れる親族がおられないという場合、その後の日常生活に関するところについても、継続した関わりを持つことが必要とされるのではないかと考えます。
「見守り契約」や「任意後見契約」などにより、直接お話しする機会をいただきますと、制度や契約だけでは分からない、ご本人の性格やお考え、大切にしたいものなど、様々なことを教えていただくことが出来ます。
そして、関係する行政や福祉関係者の方々、ご近所のお友達など、特定の「誰か」だけではなく、周りの方々が協力してサポートすることで、それが世間話をした様な時間であっても、社会からの孤立を防ぎ、孤独を感じさせない、ということにつながります。
人と人との関わりは何かのご縁だと思いますので、これからの「人生の伴走者の一人」として、ご一緒する時間の積み重ねを大切にしていきたいと思っております。