皆様は「遺言」について、どのようなお考えや印象をお持ちでしょうか。
最近は、「終活」という言葉に対して抵抗感を感じる方も少なくなってきておりますので、「漠然とでも、必要性を感じる」とお考えの方は多いと思われますが、次の様なイメージをお持ちの方もおられるかもしれません。
・「自分にはまだ早い」
遺言=遺書というイメージをお持ちの方もおられますが、「生前、遺言をつくると言っていたのに・・」という、相続で困られた方のお話を聞かれたことはないでしょうか。
・「そんなに財産は無い」
相続に関する争いの多くは、「正式な遺言が無いために起こる」と言われますので、財産の多い方だけに遺言が必要という訳ではありません。
裁判所発行「司法統計年報・平成27年度版」によりますと、相続で調停が成立した案件のうち、争われた相続財産額は1,000万円以下が約30%、1,000万円〜5,000万円約40%という報告もあります。
相続の争いは「財産が多いから起こる」という訳ではありません。
遺言をつくる一番の目的は、「将来の相続で揉めない為」です。
相続の争いと聞いても、「自分の家族には縁遠いもの」と、思っておられる方も多いかと思います。
相続で争いが生じる場合、初めから折り合いが悪く、すぐに相続争いになってしまうご家族もおられますが、それまで特に問題がなかったご家族が、ちょっとした気持ちのずれや考え方の違い、過去の積み重ねの様なものが、相続をきっかけにして表面化する、というケースの方が多いです。
相続で争いが生じる理由には、様々な要因や感情的なものが絡み合うことが多いのですが、下記の場合には特に注意が必要です。
万一、相続の協議がうまくすすまずに時間が経過してしまいますと、「受けられたはずの相続税の控除が受けられなくなる」、「相続人がその後死亡し、次世代に相続が残ってしまう」という、新たな問題が発生することもあります。
相続では、「子供同士の相続割合は平等」ということは、誰しもご存知だと思いますが、親の介護を献身的にされていた方と、そうでない方がおられても、それを理由として相続割合が変わる訳ではありません。
介護をされていた方が、そのことに不公平感を感じておられたり、他の方から心無い一言を言われてしまったりしたら、どうでしょうか。
「特定の方に介護を任せざるを得ない」という事情は、お住いの場所や仕事の都合など、様々な理由がありますので、それ自体は珍しいことではありません。
ただ、それが“将来家族が揉める原因になるかもしれない”ということを踏まえて、予め財産の引き継ぎ方を考えておくのも、親として愛情の一つだと思われます。
亡くなられた方より、生前に金銭などを援助(生前贈与)をしてもらった方がいる場合、それを相続財産に含めるのかどうか、「特別受益」と呼ばれる問題があります。
また、生前贈与が原因で争いが生じた場合、前提となる金銭的な評価についてそれぞれの見解が異なる場合が多く、調停や裁判にまで発展してしまううことも少なくありません。
遺言の種類には、大きく分けまして自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つがあります。
それぞれの特徴は、下記の通りとなります。
遺言を手書きする方法で、手軽につくれて費用も掛かりませんが、不備がありますと有効な遺言とはなりませんので、注意が必要です。
※その他の注意点
民法上、自筆証書遺言の成立要件は上記の1〜4のみですが、それ以外の注意点は下記の通りです。
・使用する用紙
用紙に規定はありませんので、極端に言えばチラシの裏などに書いてあっても、それが遺言者の真の意思表示だと判断されれば、有効な遺言ということになります。
ただ、大事な遺言を“その辺の紙切れに書いておく”ということは一般的には考えづらく、下書きという判断になる可能性もありますので、便箋等に書く方が良いでしょう。
・自書について
もし、添え手をしてもらって書いた遺言は、その補助者の意思が入っている可能性があるとして、後にその効力が否定されてしまう可能性があります。
・保管について
遺言をつくられてから、実際にご家族の方がそれを目にするまでは、長期間になる場合もありますので、紛失や加筆されるといった恐れもあります。
この点につきまして、法務局で自筆証書遺言が保管される制度が始まりましたので、これを用いれば、保管に関する懸念も、将来の検認手続きも不要となります。
但し、この制度を利用するには、必ず遺言者が法務局へ出向いて手続きをする必要があります。
遺言者の作成または口述した遺言内容を、公証人が公正証書にするもので、多くの場合、“遺言の原稿を公証人が清書して、正式な遺言にする”というイメージになります。
公証人が遺言者と面対して作成されますので、「遺言内容が本人の意思」、「認知症などの影響がない」ということが確認された遺言である、ということになります。
また、遺言の原本は遺言者が存命の間は公証役場で保管され(遺言者様には原本の複写である、正本や謄本が交付)ますので、滅失、毀損、偽造、変造の恐れもありません。
遺言の作成・内容自体を秘密とすることができる遺言です。
遺言者が遺言内容を作成しますが、自筆証書遺言のように自書である必要は無く、第三者に作成してもらっても構いません。
ただ、将来の家庭裁判所の検認は必要となりますので、その後の訴えにより、遺言の効力自体が否定される可能性はあります。
現在、あまり用いられることの少ない方式の遺言書です。
次の様な方は、通常の相続では引継ぎが出来ない、または揉める可能性がありますので、必然的に遺言の作成が必要となります。
特定の相続人に多く引き継いでもらったり、孫や甥姪、子供の配偶者など、相続権のない親族への引継ぎを希望したりする場合、遺言が無ければ実現することが出来ません。
特に、孫への引継ぎにつきましては、子供が存命の場合は、遺言がないと実現出来ません。
こちらは、相続で揉めることが一番多い相続人の組み合わせです。
配偶者と兄弟姉妹での相続の話し合いは円満にいかないことも多く、特にそれまでの関係性があまりない場合、「どうして兄弟姉妹に相続が及ぶの?」、「そういう話すらしたくない」という方もおられるのではないでしょうか。
また、「子がいなければ、すべて配偶者が相続できる」というのも、よくある勘違いです。
公正証書遺言は、書類の準備や公証人に対する手数料に加え、証人が2名必要となりますので、どうしようかと頭を悩ませている方もおられます。
ただ、遺言をつくる目的は、家族が相続で揉めず、遺言者の希望通りの引継ぎが実現される、ということだと思いますので、費用は掛かりますが、これを確実に実現するのは公正証書遺言であることは間違いありません。
ご高齢の方の中には、様々な理由から「文字を書くことがしんどい」と感じておられる方も多くおられます。
公正証書遺言の場合、最後に署名・捺印をするだけで遺言がつくれます。
遺言をつくった年齢が高齢であったり、認知症の疑いがある方が遺言をつくられたりした場合、その有効性に疑問が持たれる場合があります。
特に、生前言っておられたことと遺言内容が全く違っていたり、遺言をつくれるような健康状態ではなかった、という様な状況があった場合には、遺言の有効性について、争いが起こる可能性が高くなります。
公正証書遺言は、公証人が遺言者の意思を直接確認をしながら作成されますので、遺言者に遺言能力があったことも併せて確認されます。